LARABIAN ROOM

ホテル情報誌「ホテルジャンキーズ」掲載記事より


志摩薫の
アラビアン・ホテルライフ

2008年6月よりサウジアラビアのリヤドに住んでいる
志摩薫さんによる、
ホテルジャンキーの目で見た
あっと驚くアラブのホテル事情です。


  • イスラム教とホテル
  • ラマダンとホテル
  • ホテルのウィークエンドブッフェ
  • ハッジ(大巡礼)とホテル
  • 女性は使えないプールとジム


  • ■イスラム教とホテル

    あっと驚くアラブの掟(1)

    ・ホテル内でも女性はアバヤ(黒いロングガウン)とヘジャブ(黒いスカーフ)着用のこと。
    ・ホテルのプールは男性専用。
    ・女性のみのホテル泊まりは許されないこともある。



    「アハラン ワ サハラン!」

    HJの皆様、いかがお過ごしですか?
    こちらはヒジュラ暦一四二九年夏、摂氏五十度目前のカラカラ灼熱のリヤドです。ベールに包まれたアラブのホテル事情を少しずつ解き明かし、異国の香りをお届けできたらと思っております。どうぞよろしくお願いします。

    イスラム教発祥の地サウジでは、今なお厳格な戒律を守って暮らしています。たとえ外国人でも、女性が一歩外に出るときには必ずアバヤ(黒いロングガウン)にすっぽり身を包み、髪を隠すためのヘジャブ(黒いスカーフ)を首に巻くのが決まりです。リヤドの二大ホテル、フォーシーズンズ・リヤドやローズウッド系ファイサリア内でも脱ぐのは厳禁。宗教警察ムタワに見つかったら、即逮捕です。そこで、普段着用とは別に、お出かけ用アバヤで黒づくめなりにおしゃれします。

    イスラムでは基本的に男女の混同をよしとせず、街中のレストランでは男性、女性、ファミリーとそれぞれ別室に行かなければなりませんが、ホテルのレストランは誰もが一緒に食事を楽しめる貴重な場。また、一日五回のお祈りタイムにはどの店も三十分ほど営業を中断しますが、ホテル内はその間もずっとオープンしていて安心です。ムスリム以外の人にとってホテルは一息つけるオアシスのような存在です。

    ただしプールは男性専用! 水着姿でリゾート気分とはいきません。他にも女性の行動には数々の制限があり、今年ようやく女性のみのホテル宿泊が許可されたばかり。それまでは夫や父等、男性保護者が同行しなければ予約すらできませんでした。実際にはまだ女性のみの宿泊には偏見があり一部のホテルでは保護者の承諾書が必要だとか。このように他国とは大きく異なるホテル事情、女性が気軽に利用することはありません。

    その代わりというかリヤド郊外にプール付きの大きなヴィラが建ち並ぶ貸別荘地区があり、週末サウジ人女性二十人のポットラックパーティに参加させていただきました。ヴィラの中は男女別で広い芝生の中庭を囲んで周りにいくつも部屋があります。ここではムスリムも皆Tシャツにジーンズ姿でお菓子を食べながらリラックス。アラブの夜は長く夕食は夜中の十二時過ぎから。各自持ち寄ったお料理をブッフェ形式でいただきます。

    その後もガールズトークに花が咲き、ホテルでのパジャマパーティアラブ版といった雰囲気でした。やはり先祖は砂漠の遊牧民、四角い壁に囲まれた狭い個室は似合いません。星空の下、芝生の上の絨毯にゆったり寛ぐ姿に納得でした。

    情報誌「ホテルジャンキーズ」Vol.69(2008年8月発行)より



    ■ラマダンとホテル

    あっと驚くアラブの掟(2)

    ・ホテルでもすべてのレストランは日没までクローズ。
    ・ラマダン中は日没後にスペシャルブッフェ開催。
    ・おかげでラマダンはホテルにとっての稼ぎ時。



    「ラマダン カリーム!」

    ヒジュラ歴九番目の月は、ラマダンと呼ばれる神聖な月。ムスリムはこの一ヶ月間、日の出から日の入りまで断食をしアッラーの神を祝います。断食というと辛いイメージですが、あちこちに「ラマダンおめでとう!」の垂れ幕が下がり、人々は日没後から食べまくる食料を大量に買い込み、お祭りムードで楽しそう! 

    イスラムでいう断食は、単に食を断つのではなく悪を絶つという意味もあり、欠乏の苦痛を味わうことで他人の苦しみを理解し、犯した罪を浄化する効果もあるのだそうです。当然、日没までは街中すべてのレストランがクローズ。現地学校は休み、企業の勤務時間も短縮され多くのサウジ人は昼夜逆転生活を送ります。ふだんと違う生活で順応性も鍛えられるのだとか。

    イスラム戒律が徹底しているサウジでは、外国人でもコンパウンドの外では一切物を口に出来ず、砂漠の真中で水を飲むことすら許されません。さて、ラマダン中、ホテルの中は? もしやラマダン・スペシャルランチなんていうお助けがあるのでは?と微かな望みで調べた所、やはり全滅! すべてのレストランが日没後からのオープンで、イフタール(断食明けの食事)やスフール(断食前の食事)のスペシャルブッフェを催しています。そんな中、マリオットでは宿泊券や食事券が当たる抽選会付きブッフェを宣伝していたので、早速行って参りました。

    石油以外の物資をほとんど輸入に頼るサウジでは、世界的な物価上昇の影響でブッフェ料金は昨年の15〜50%アップ、一人六千〜一万円ほどするのですが、開店と同時に腹ぺこアラブ人家族で満席となり大にぎわい。ホテルにとって一番の稼ぎ時です。お味の方はもう一歩だと思いましたが(断食中はシェフも味見できないせい?)、インテリアに月の装飾があったり、TVモニターで聖地メッカのモスク内を生中継していたりとアラブのラマダン気分にどっぷり浸る事が出来ました。

    食べては寝るだけの怠惰な生活を印象づけてしまうといけないので、ある敬けんなムスリムのラマダン中の感想を付け加えます。昼間は食事の事を考えなくてよいため、勉強やコーランを読むことに集中でき、いつもより有意義に過ごせるとのこと。お腹が空くと集中力が切れ、食べ物のことで頭がいっぱいになる私からは想像を絶する素晴らしいお言葉でした。

    情報誌「ホテルジャンキーズ」Vol.70(2008年10月発行)より



    ■ホテルのウィークエンドブッフェ

    あっと驚くアラブの掟(3)

    ・ウィークエンド・ブランチは金曜日に。
    ・ブッフェの料理は席まで運んでくれる。
    ・女性は食べる瞬間だけマスクを素早くめくる。



    「ラジーズ!」

    急速に冷えこみが進む砂漠の真ん中リヤドです。同時に食欲も急速に進み、食事がおいしい気候となりました。イスラムの休日は金曜日。木曜の夜と金曜の昼には多くのホテルでウィークエンドブッフェが盛んです。

    お勧めはリヤドのランドマーク、ユニークな栓抜き型の高層ビル、キングダムタワー内にあるフォーシーズンズ・リヤドの「シーズンズ」。味、サービス、雰囲気と三拍子そろったフライデーブランチは、通常夜のみ営業のイタリアンレストラン「クアトロ」まで範囲を広げ、それは巨大なブッフェなのです。

    これだけ広いとお皿を手にあちこち歩き回るのはちょっと大変。まして自宅で複数の使用人を使いこなす恰幅のいいアラブ人が、自分でちまちま料理を運ぶなんて不似合いです。そこで各テーブルには番号札が置いてあり、各自それを持ってブッフェ台を見て歩き、欲しい物があればその場のスタッフに渡すという便利なシステム。手ぶらで戻るときれいに盛り付けられたお皿の数々がテーブルに届くというわけです。

    さらにアラブらしいといえば、キッズコーナーが設置されていること。子供の目線に合った低いブッフェ台にはかわいいキッズメニューがずらり。側にはちょっとした遊び場もあります。サウジの出生率は日本の三倍。映画館がない等、娯楽の少ないサウジでは、お子様連れ家族の満足度が鍵のようです。

    さて、肝心な料理の内容は、アラブ料理をはじめ世界各国の料理が何でもあり。一番感激したのは、ラクダの丸焼き! まだ幼いラクダがライトに照らされている姿は、少々痛々しくもありますが、これがやわらかくてジューシー。

    「おいしい!」。ラクダ肉はスーパーマーケットで普通に手に入りますが、さすがに桁違いのおいしさでした。

    何といってもホテルのレストランの最大の楽しみは、アラブの大富豪風大家族の食事風景が間近に観察できること。男性は真白いトーブ、女性は真黒いアバヤ、全員がモノトーンでテーブルを囲むシーンは何度見ても幻想的。夫以外の男性に顔を見せてはならないため、黒いマスクで顔まで覆ったご婦人も多く、食べ物を口に入れる瞬間だけマスクの裾を素早くめくる器用さに目が釘づけ。

    アラブ人の豪快な食べっぷりは気持ちよく、夫のメタボ腹なんて小さく見えてくるので危険です。

    情報誌「ホテルジャンキーズ」Vol.71(2008年12月発行)より



    ■ハッジ(大巡礼)とホテル

    あっと驚くアラブの掟(4)

    ・巡礼用テントには五ツ星認定テントもある。
    ・ホテルでもクリスマス禁止。
    ・「犠牲祭おめでとう!」メニューは、ない。



    「イード ムバラク!」

    ヒジュラ暦一四三○年スタート! ですが、新年を祝う習慣はなく、いたって普通の毎日です。

    十二月、クリスマス禁止のサウジは、ハッジ一色。ハッジとは聖地メッカへの大巡礼のことで、経済的、時間的に余裕のあるムスリムなら、一生に一度は行う宗教的義務です。現世での富や地位といった価値を捨て、アッラーの神の意志と自己を同化させる意味があり、男性はたとえ国王でもエフラームという白い二枚の布だけで身体を覆います。メッカへはイスラム教徒しか入れないため、テレビ中継でハッジ見学。回教という名の通り、祈りの中心カーバ神殿の周囲を回る大群衆の背景には、ヒルトンやインターコンチネンタルといった外資系ホテルが立ち並ぶ様子も見えました。

    今回のハッジには国内外から約二百五十万人の巡礼者がパッケージツアー(飛行機、ホテル、食事代の他、予防接種や犠牲祭の生け贄費等、一連の儀式がセットになったもの)を組んで大集合。この時期、現地のホテルは一年で一番の繁盛期ですが、こちらも金融危機の影響で欧米からのキャンセルが多く、前年比25〜30パーセント減という某ホテルのGMのコメントも。そうはいっても、ホテルだけで足りるはずはなく、巡礼中の宿泊施設はテントが一般的。テントといっても常設のものから仮設のもの、大きさや設備等さまざまで、なかには5ツ星をつけているものもあるそうです。

    数年前にムスリムの知人が泊まったテントは八十人用の大型のもので、中には八十台のソファベッドがずらりと並び、その一台分が一人用のスペース。食事用テントは別で、アラブ料理のブッフェスタイル。仮設トイレとシャワーは共同で、香料入りの石鹸類は禁止。もちろん男女別なので、家族間の連絡は携帯電話で。こんな質素な宿泊施設も、ハッジ本来の意味に沿ったものと思えてきます。

    さて、熱気に包まれたメッカに対し、リヤド市内は閑散とした雰囲気。学校、会社、商店の大半はハッジ休業で道もがらがら。こんな時はホテルだけが頼りというわけで、「犠牲祭おめでとう!」メニューを期待し、ローズウッド系のアルコザマへ。食事中聞こえてきたアザーンが多少長いような気がした以外はすべて通常通り。ハッジがいくら一大行事でも、お祭り騒ぎで祝うことは教義上よろしくないのだそうです。最終日、今回のハッジは大成功!との国王のお言葉で、めでたく幕が下りました。

    情報誌「ホテルジャンキーズ」Vol.72(2009年2月発行)より



    ■女性は使えないプールとジム

    あっと驚くアラブの掟(5)

    ・化粧品やインナー売り場の店員は男性。
    ・女性化粧室の清掃も男性スタッフがする。
    ・いつオープンか「計画」を立ててはいけない。



    「インシャー アッラー」

    クリスマスに引き続き、バレンタインデーも禁止のサウジです。そんな二月十四日、国王は即位後最大規模の政府高官人事改造を発表しました。これまで強硬派と恐れられてきた宗教警察ムッタワの委員長の交代と初の女性教育副大臣誕生です。これにより何かと制約の多い女性の行動がどう広がるのか、興味深いところです。

    個人的にはホテルに女性スタッフがいて欲しいです。こちらでは男女の混合をよしとせず、女性の労働に反発があるため、商業施設のスタッフは全員男性。(化粧品やインナー売り場も)ホテルのスタッフは皆親切ですが、たとえば化粧室関係等、女性にききたいこともあります。中の清掃も男性スタッフなので、はじめはドキッとしました。

    先日、リヤド中心のローズウッド系ファイサリア・ホテルへ食事に行った際、親切なバトラーに館内を案内していただきました。

    ○○年にオープンしたユニークな外観のこのホテル、室内はゴールド使いがほどよくきいたモダンな内装で、設備はベッドサイドのタッチパネルで操作します。デスクには文房具セットも完備され、なかなか使い勝手が良さそうでした。特に室内プールは、狭いながらもウェットサウナのように湿度たっぷりで、砂漠生活でからからの身体にすーっとしみこむ心地よさ! ジムやプールがセットになったお得なウィークエンドパッケージがあるのですが、どちらも女性立ち入り禁止とは、本当に残念です。

    と、そこへちょっと耳より情報が。昨年までレジデンス棟だった建物が現在改装中で、今年中には女性専用のジムとプールがオープンするのだそうです。今年といってもいつかは未定。計画を立てること自体、イスラム教儀に反すること。重要行事ラマダン開始日でさえ、当日の月を見て決定するという、なんとも風流なやり方です。「全てはアッラーの神の思し召し」、気長に待つしかありません。

    ただ悲しいことに、もうすぐ帰国が迫っています。今まで四十カ国ほど訪れた中でサウジは最もエキゾチック。観光地ではないため、現在入国は難しいのですが、この先解放に向かったら一度は見る価値ありだと思います。

    ということで、レポートは今回で終了です。今までアラブの不思議にお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

    シュクラン!


    情報誌「ホテルジャンキーズ」Vol.73(2009年4月発行)より



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