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ホテル情報誌「ホテルジャンキーズ」
Vol.63 特集記事より



息子と母のホテル


















■息子が母のためにホテルを選ぶ時

「母さん、僕の麦わら帽子、どうしたんでしょうね?」
かつて、そんなキャッチフレーズの映画がありました。
遠い昔、母と二人で出かけたホテル
(モデルになったのはホテルニューオータニ本館)。
そのときの記憶が忘れられない息子と母の物語でした。

最近、ホテルジャンキー界では、母親のためにあれこれと考えを巡らしホテル選びをする息子たちが目立ちます。
そして、母親の反応に喜んだり、がっかりしたり、時に思いがけない母の老いに触れて胸を痛めたり。

親孝行で心やさしい息子たちは、自分が体験したホテルの心地よさや素晴らしさを、ぜひ母親にも味あわせてあげたいと思うようです。

息子たちが母のためにホテル選びをするときの調査・考察は実に綿密です。
単に自分の好みだけでは決めません。何よりも母がリラックスして喜んでくれるかどうかがポイントですから、母の身になり、あらゆるケースを想定します。

高級な雰囲気や豪華な施設は、ときに慣れない母を萎縮させ、気後れさせてしまうことがありますから、その度合いも慎重に見はからなくてはいけません。

その一方で、母が日常生活では体験できないような贅沢もこの機会にぜひ体験させてやりたいので、ほどよい華やかさも必要です。

サービスも、単に至れり尽くせりであればいいというわけではありません。ビジネスライクで打てば響くような間合いが短いサービスタッチよりも、母たちのテンポとリズムに立ち止まって合わせてくれるやさしさを持ったところであって欲しいものです。

息子たちは、ロケーションの考察についても仔細に行います。地図をじっくり眺め、インターネットで検索して駅の構造を調べ、年老いた母の移動が楽なホテルを探します。駅にはエスカレーターやエレベーターの設備があるかチェック。最寄駅からホテルまでが中途半端な距離の場合は、タクシーが使いやすい距離のホテルを選んだ方がいいだろう、等々。

そんな息子たちが母のために選んだ三軒の東京のホテルをご紹介します。

シェラトン都ホテル東京


銀座など都心の繁華街からはちょっと離れた静かなロケーションにありながら、タクシーで気軽に行き来できる距離。緑が豊かなので「東京に来ると疲れる」母たちもホテルに戻ってからホッとくつろげる。ホテルの規模も手頃で迷わない構造。

コース料理だと食べきれない小食の母には、丼ものやカレー、麺類、オムライス、和定食などのメニューをいろいろとりそろえているロビーラウンジ「バンブー」がおすすめ。クリームあんみつやソフトクリーム、なつかしい牛乳瓶がついてくるアイスラテなども、外歩きで疲れて甘いものが欲しい母たちには人気メニュー。

食事時などレストランが混んでいるときの穴場はヘルスクラブの「プールサイド・ラウンジ」。ガラス越しにプールを見下ろしながら、軽食の他、館内のチャイニーズレストラン「四川」から海老入り汁ソバやチャーハンなどを届けてもらうことができる。

日本庭園に面した三、四階の客室番号末尾三十六〜五十四番の部屋からは、窓いっぱいに広がる緑の眺めが楽しめるので、街歩きにつかれた母たちにはおすすめ。改装後は客室のベッドの高さがかなり高くなったので、小柄な老母の場合は要注意。

最寄駅の白金台からだと徒歩五分とはいうものの、陽射しが強い夏や寒さ厳しい冬はけっこうつらいもので外出がおっくうになりがちなので、タクシー利用をおすすめする。

山の上ホテル


文化人たちが愛したホテル、歴史を感じさせるクラシックホテル、こういうものが大好きなかつて文学少女の母たちにはうれしくてたまらないホテル。

ただし、部屋の設備は古い。水周りなども充分清潔ではあるものの旧式だ。快適性にこだわる母たちには向かない。食事やお茶だけにしておいた方がいいだろう。

館内で食事に連れて行く場合、てんぷらの有名店「山の上」はありがたがられる。が、それなりのお値段もするので、メニューを見て息子の懐具合を心配するような心やさしい母には、「ヒルトップ」で「山の上」から天丼を取り寄せして安心させるという手もある。

「東京はほんとうに物価が高い」と嘆く母たちにとって、このホテルのコーヒーパーラー「ヒルトップ」や南欧料理「シェヌー」などのリーズナブルな価格設定は気軽に利用できる。スタッフも素朴でシニア客慣れした人が多いので、母ひとりでも安心して利用できる。

また、このホテルはルームサービスメニューが充実しているのでも有名。ご飯とおみそ汁にお新香付きのやわらかいフィレステーキ定食や作家たちにも人気がある豪華な海鮮入り洋風雑炊など、部屋で気兼ねなくゆっくり食事をしたい場合はいい。

パレスホテル

 (現在、建て替えのためクローズ中。以下は旧ホテルについて)


皇居に面しているため、そのことに価値を見出す母たちには大いに喜ばれる。また、息子が丸の内勤務の場合、「丸の内の息子の会社のすぐ近くのホテルに泊まった」と田舎で自慢できる。

年配のスタッフも多く、ホテル全体がシニア客の世話にも慣れており、各フロアに専従のアテンダントがいるので、ホテルに母ひとりだけ残していっても安心できる。

客室ははっきりいってかなり古いので、水周りなどにうるさい母に宿泊はすすめない。

日比谷方面に視界が開けた絶好のビュー(真正面にペニンシュラホテルが見える)が楽しめる「クラウンラウンジ」のティータイム利用がおすすめ。おいしい紅茶と名物のマロンシャンテリーは母たちに喜ばれるもののひとつ。

地下のアイビーハウスがランチタイムにやっている八種類の薬味がつく名物のカレーもリーズナブルな値段と丸の内のサラリーマンでにぎわう雰囲気が活気があって楽しいようで意外に喜ばれる。オープンと同時に並ぶので早めに。

辛党の母たちには、クラシックな雰囲気のバーもおすすめ。バーテンダーに昔話を聞きながら、息子と二人でホテルのバーで一杯飲る。母にとっては忘れられない思い出になるだろう。



■孝行息子たちが母のために選んだホテル


「パレスホテル」

「セルリアンタワー東急ホテル」

「帝国ホテル」

「ANAインターコンチネンタルホテル東京」

「フェヤーモントホテル」

「シェラトン都ホテル東京」

「フォーシーズンズホテル椿山荘」

「ロイヤルオークホテルスパ&ガーデンズ」

「日光金谷ホテル」

「ANAインターコンチネンタルホテル東京」

「山の上ホテル」



■孝行息子の母息子泊まりレポート



「いい思い させてもらったわ 、ありがとね」
深々と頭を下げた母


この夏、上京してきた母のために『フォーシーズンズ椿山荘』を予約しました。最初は僕だけ自宅から通うつもりでしたが、チェックインした後「こんなに広くてベッドも二つあってもったいないから一緒に泊まろう」と言い出した母に、僕も泊まることになりました。

今回、ホテル選びにはけっこう悩みました。年に一度は上京するのですが、社宅が狭いのでいつもホテルを取ります。ここ数年来、ホテル選びは僕の担当となっています。しかし、なかなか母の好みにフィットしません。

御三家のような日系の有名ホテルであれば、そこそこの高級ホテル感も味わえるのでいいかと思いましたが、帝国ホテル「大きすぎて人がごちゃごちゃいてイヤ。朝ご飯もおいしくない」、オークラ「朝ご飯(和食)はおいしいけれど、なんだかあんまり上品すぎて落ち着かないわ」、ニューオータニ「広すぎて迷って困った。そのわりに部屋がせせこましくってね」。御三家も母にかかってはケチョンでした。

そこで発想を変え、今年は外資系ホテルも候補に入れることにしました。ところが、東京の外資系ホテルは昨年に比べると料金が大幅に上がっています。妻と交渉の末、予算はなんとか一泊三万円まで引き上げてもらいましたが、それにしても高級どころに泊まるにはなかなかきびしい線です。

泊まるホテルの候補として、ホテルジャンキーズクラブのホテルランキングで一位になり、サービスのタッチもやさしいと聞いたフォーシーズンズ椿山荘を考えていたところ、ちょうど運良く、一休で開業十五周年記念プランで一泊一室三万円というのをみつけ、これにしました。田舎暮らしの母には少々上品すぎるかと心配していましたが、意外にもロビーに入るなり「外国みたいだねぇ」とうれしそう。

部屋はシティビューでしたが、母にはぎっしりと家並みが続く東京の街の眺めが珍しいようで飽きずに眺めていました。

「イル・テアトロ」に朝食を食べに行った際、「いやあ、すごいわぁ。素ん晴らしい眺めだねぇ」と手放しで喜ぶ母をスタッフの方が気づかい窓際の眺めのいいテーブルにしてくださったため、「京都にでもいるみたいだね」といたくご機嫌でした。

頼んだパンケーキ(母は「ホットケーキ」と頼んでましたが)の盛りつけがきれいだとはしゃぎ、初めて食べたエッグベネディクトに「まだ食べたことがない、こんなおいしいものが世の中にはあるんだね」としみじみと喜ぶ母。「洒落たコップだねぇ」「こんな風にピシッとアイロンかけるの大変なんだよ」といちいち感動し、楽しそうな母…。スタッフの方とあれこれ楽しそうに話す母の晴れやかな笑顔…。そんな母の姿を見ているだけで幸せな気持ちになりました。

「ここはホテルの人たちがみーんなニコニコして愛想よくっていいねぇ」。
田舎者丸出しの母に対してもスタッフの方たちはバカにするようなそぶりは露ほども見せず、終始一貫やさしく接してくださったのも、僕にはうれしかったことです。

 僕がチェックアウト手続きを済ませ、ロビーで待っている母のところへ行くと、ソファの上にちんまりと座っている思いがけず小さな母の姿がありました。

「こんないいホテルでね、いい思いさせてもらったわ。ありがとね」。そう言って深々と頭を下げる母に、なせだか妙に動揺して言葉が返せませんでした。

(橋本正樹 三十代、既婚、会社員)



■息子たちへ質問


「お母様のためにホテルへ
どんなリクエストをしていますか?」




「エレベーターから迷わないで行ける近い部屋にしてもらう。」

「移動であまり歩かなくてもいい部屋にしてもらう。」

「あればバリアフリーの部屋にしてもらう」(年と共にぶつかったり、滑ったりすることが増えたので)。

「私の部屋とコネクティングルームにしてもらう。」

「母の部屋のキィーは二枚出してもらい、一枚は私が保管しておく」(オートロックの部屋の中にキィーを置き忘れて出てしまって大騒ぎになったことがあったので)。

「室内に段差がある部屋は年寄りには危ないので避けてもらう。」

「すぐにあちこちにつかまるので、手をかける可能性がある場所から花瓶などの置物をはずしておいてもらう。」

「あればバスルームに洗い場がある部屋にしてもらう。」

「トイレのスリッパは別にしたがるので、スリッパは一つ余分に用意しておいてもらう。」

「持参のお茶を飲むので部屋に湯沸しポットと湯のみ茶碗(備え付けのコーヒーカップでお茶を飲むのはいやがるので)を入れておいてもらう。」

「よく果物を買って来て部屋で食べるので、皿とフォークを部屋に用意しておいてもらう。」

そんな息子さんの心づかい、お母様はご存じでしたか?


*情報誌「ホテルジャンキーズ」Vol.63掲載特集記事より抜粋。

詳しくは「ホテルジャンキーズ」第63号をご覧下さい。